東日本大震災で大きな被害を受けた福島県で、2011年夏までに200戸の「板倉の家」の仮設住宅が建設されました。その内、36世帯が内陸である会津若松市に、162世帯が沿岸部にあるいわき市に建てられました。
阪神大震災の時は仮設として建てられたプレハブ住宅の約8割がゴミとなったそうです。「板倉の家」を考案された筑波大学の安藤邦廣教授は、仮設住宅の使い捨ての現状に問題提起をし、仮設としての役割だけで終わらせず、その後に復興住宅に転用でき、且つ100年もつ地域住宅のストックとなっていける木造仮設住宅の必要性を説いてこられました。新潟県中越沖地震の際には採用されなかったのですが、今回はプレハブが不足するという事態もあって長年の想いが実現するに至ったのでした。
「板倉の家」の特徴は杉の厚板で、床、壁、屋根を構成し、堅牢で耐久性があり、断熱性と調湿性に優れているところです。それを可能にするには樹齢50年前後でしっかりと乾燥された杉材が欠かせません。今回、200戸の仮設住宅を建設するにあたって大量の杉の乾燥材が必要となりました。安藤教授はこれを供給できるのは日本でもここしかないと、かねてより「板倉の家」の木材供給の拠点であった、徳島県那賀川すぎ共販協同組合に協力を呼びかけました。
この組合は、安藤教授が「板倉の家」を始めた20年以上前から、共に木材の乾燥方法などを研究開発されてきたパートナーで、ここの強みは、板倉用材として約20万枚の天然乾燥材を常時ストックしている事です。今回、「板倉の家」仮設住宅が実現する事ができた背景にはこうした長年の取り組みがあってこその事だったのでした。
「板倉の家」仮設住宅の建設は、木造でありながら国家予算である、『建設から解体処分まで総額60万円/坪』という規定をクリアできた事は画期的な事例となりました。また環境にやさしく、被災者の住み心地にも配慮した仮設住宅として各メディアでも大きく取り上げられました。
◎NHKニュースおはよう日本 木材で“エコ”仮設住宅
「板倉の家」仮設住宅を見てきました。
2011年8月30日、福島県会津若松市で建設中の「板倉の家」仮設住宅を実際に見に行きました。
朝早くに現地について、写真を撮りながら見て回ると、近所を散歩中の方が「こんな仮設住宅だと嬉しいやろうね。」と話しかけて来られました。同じ敷地内に集会所が建てられておりそこには立派な梁がかかっていました。こんな大きなサイズの梁を見ているだけで、ここは仮設住宅でなく「復興を果すための住宅」だと感じられます。ここでみんなが梁を見て勢いを感じ、前を向いてもらうようにと安藤邦廣教授の思いがこめらたような梁構成でした。
―報告会資料より―
「板倉構法による応急仮設住宅の建設」安藤邦廣 筑波大学大学院人間総合科学研究科教授
東日本大震災の応急仮設住宅建設あたって、福島県では建設予定数1万4千戸のうち4千戸を県内事業所に発注した。発注にあたって公募した結果、県内の28の事業所から応募があり、学識経験者を交えて審査を行った結果12の事業所が選ばれた。従来、災害の応急仮設住宅の建設は県とプレハブ建築協会との協定によって、プレハブメーカーが一手に担ってきた。仮設住宅を大量に早く安価に建設するためにはそれ以外の方法はなかったといえる。しかし今回の地震の災害は甚大で、東北地方の太平洋岸全域にまたがることもあって、プレハブだけでは対応が難しい状況であった。また東北地方は森林資源に恵まれ、木材生産地であり、大工集団の宝庫であることから、木造で仮設をつくることで地域振興をはかり、復興につなげることができる。このような考えのもとに、福島県では木造の応急の仮設住宅を地元業者に発注したのである。これまでの慣例を打ち破る画期的な試みとして、この福島県の英断は高く評価され、地域内外から注目を集めている。私は木造建築を推進する立場から、このプロジェクトに関り、県内の1事業所である佐久間建設工業と協議で、木造仮設住宅の建設に取組んでいる。未だ工事半ばであるが、これまでの経過を振り返り、その成果と課題について考え、震災復興の一助としたい。